持続可能な漁業って?水産業の未来を考えるシンポジウムに行ってきました
2018年1月22日(月)に東京海洋大学の品川キャンパスで開催された「水産業の未来を考えるシンポジウム」に牡蠣の会の代表・泉とともに参加してきました。
目次
「持続可能な漁業」って知っていますか?
魚や貝などの水産物は、獲り尽くしたりしなければ、私たちはいつまでもその恵みを受けることができます。
海の環境と私たちの食を守る上で、いま、水産資源の「持続可能な利用」が大きなテーマとなっているのをご存知でしょうか。
詳しく知りたい方はこちらの公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の記事をご覧ください。
持続可能な漁業を知るうえで、いくつかの用語を知っておくとよいと思いますので挙げておきます。
MSCとは?
このようなマークを見たことはありますか?日本ではまだそれほど馴染みのないものかもしれませんね。
MSCは”Marine Stewardship Council”の頭文字から取っていて、日本語に訳すと「海洋管理協議会」となります。
MSCの本部はロンドンです。国際的な非営利団体で「世界中の海から乱獲をなくし、すべての漁業が持続可能になっていくための活動」をしています。
そのために上に示したマークを使用しています。「海のエコラベル」と呼ばれています。
このマークは、その商品に使われている水産物が、持続可能で環境に配慮した漁業で獲られたものであることの証となります。
ASCとは
ASCは水産養殖管理協議会という意味で、世界自然保護基金(WWF)とIDH(オランダの持続可能な貿易を推進する団体)の支援のもとで、2010年に設立された、独立した国際的な非営利団体です。
主な役割は、養殖に関する世界基準を管理することです。養殖水産物の認証を厳格に行っています。
主な取り組みは、ASC養殖認定制度と水産物認証ラベルを通じて、責任ある養殖を認定し、その実施を支えるとこと。水産物の購入時に環境的・社会的にベストな選択をするよう奨励をすることなどがあります。
これらの取り組みを、養殖業者、加工業者、小売業、サービス業、科学者、環境NGO、そして消費者と協力をして行っています。
日本は「持続可能な漁業」から遅れている?
シンポジウムでは大学教授、漁師、ポータルサイト運営会社、水産卸会社、衆議院議員、役人など、さまざまな立場の方々が集まり、それぞれの講演とパネルディスカッションなどが行われ、非常に意義深い意見交換や議論が行われました。
使用されたスライドを備忘録で撮影したのでこちらでシェアしたいと思います。
日本の漁獲量は年々減少していて、このままでは将来に渡ってさらに減少し続けていくことを示しています。
漁業就労者の減少も深刻です。
そんな中で、、
世界の養殖生産は伸びています。
このグラフが示しているのは、世界の漁業は成長していて、日本の漁業だけがマイナス成長だということです。
かつて日本の漁業は世界一だった?
日本の漁業は公海自由の原則と漁業技術の進展に支えられて、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へ、と徐々に外洋に向けて発展してきました。
つまり、公海自由の原則があったのでどこまでも魚を獲りに行くことができ、日本の漁業は好調だった。
しかし、1970年代に漁業を取り巻く環境が大きく変わりました。
各国が排他的経済水域(EEZ)を設定
↓
他国の漁場を利用できなくなった
↓
自国のEEZから持続的に持続的に利益を得る漁業への変換を迫られた、のだが、それに対応できていない現状。。。
前提条件が変わったのにもかかわらず、最適な漁業が変化できなかった。
消費者に水産物の価値が届いていない
漁師→産地仲買→荷受け→小売り→消費者
モノだけが一方通行で移動して行くが、その度に水産物の情報は剥ぎ取られていき、付加価値をつけるのが難しいという現状があります。
秋刀魚ってあれだけ美味しいお魚なのに、1尾100円を超えただけで、ものすごい大げさなニュースになってしまう。美味しいんだからもっと高くてもいいんじゃないの?という声も上がりました。
付加価値が付けば、もっと適正な価格で取引されるはずですね。
2020年東京五輪における調達基準
オリンピックには「調達コード」というものがあります。経済的な合理性だけでなく、公平・公正性などに配慮して、オリンピック開催のために本当に必要な物品やサービスを調達する。
それと同時に「持続可能性」を十分に考慮した調達を行うために、具体的な調達コードを検討していくための原則というものがあります。
詳しくはこちらをご覧ください。
水産に関する世界基準は”MSC”や”ASC”があるが、日本には独自の認定制度がある。しかし、これら日本の認定制度はFAOのガイドラインに沿っているとはいえ、現在のところ世界には通用しないとのことです。
MSC取得を目指す漁師・大野和彦さん
大野さんは船橋のすずき漁師で、2020年の東京オリンピックに向けて「江戸前瞬〆すずき」が「千葉県ブランド水産物」に認定、続いて「全国プライドフィッシュ夏の魚」に認定されるなど、魚が本来持っている価値を最大限に引き出すことで「魚食の普及と我が国の食料自給に強く貢献」することを目指す、熱い想いを持った、でもとてもクレバーで、ユーモアも忘れないとても素敵な漁師です。
↑ぜひご覧ください!!
しかし、国内の認定は得たものの、現状としてMSC取得の基準にまでは達していない。これでは東京オリンピックでの取り扱い食材として採用されない。。。
MSC漁業認証予備審査
- 東京湾のすずき資源の適切な評価がされていない
- 具体的な資源管理の数値目標が示されていない
- このままでは認証取得は不可能
FIP(漁業改善プロジェクト)
FIP(漁業改善プロジェクト)とは、漁業者や市場などの様々な関係者が協力し、持続可能な漁業を目指し活動するプロジェクトです。
詳しくはこちらをご覧ください。
このプロジェクトにより、
- 操業データの蓄積によって数値目標を定める
- 独自の資源管理計画を作成して、それを全世界に公表する
- MSC認証レベルまで高めて、念願のTOKYO2020にEDOMAE水産物を提供する!!!
その目的とは
世界に向けては「EDOMAEブランド」の確立を目指す。
国内に向けては「持続可能な漁業の成功事例」を実践する。
これらを通じて、衰退する漁業を成長産業に転換させるための足がかりとするということでした。
今後の取り組みの方向性
持続可能な漁業に関して、欧米諸国よりも10〜20年遅れているのは・・
- 漁業者
- 行政機関
- 消費者の意識レベル
とのことです。
漁業者や行政機関はもちろんですが、消費者がどのような水産物を選ぶのか、この意識レベルを上げることがとても重要だと思いました。
100年後も持続可能な漁業のために
とても大切なことは、
漁業資源=「日本の共有財産」としての認識を深めること。
漁業者
- 独自のネットワークの構築や横の連携の強化
- 世界に発信できる独自の資源管理計画の作成など
- インプット、アウトプット
- 水産物のバリューコントロール
行政
- IUU漁業の取り締まりや罰則を一層強化
- トレーサビリティを今以上に明確化
- 違法に漁獲されたものの取引には、一定の処罰を課す等の法整備
消費者
- 上記を知る権利の行使
- 「資源管理を徹底する漁業者の魚」を選ぶ
- トレーサビリティの曖昧な魚は買わない
自由民主党・衆議院議員・小林史明氏の講演
そして、日本において持続可能な漁業を本当に実現するためには、国からのバックアップや法整備なども不可欠です。
小林史明氏の講演では、予想もしていなかったことが発表されました。
ちょうどこの日(平成30年1月22日)は、第百九十六回 国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説が行われました。
この演説内容の一部を小林氏よりシェアがあったのですが、これには驚きました。
全文はこちらからご覧ください。
地方創生に関する方針で「農林水産新時代」と銘打っていました。その中でも水産に関する内容は以下の通りです。
我が国を取り巻く広大な海にも、豊かな恵みがあります。漁獲量による資源管理を導入し、漁業者による生産性向上への創意工夫を活かします。
「漁獲量による資源管理を導入し」とあります。このことに言及するのは初めてのことだそうです。
水産改革の目指すゴール
このように、国が水産改革に本格的に取り組むという動きが見えてきます。そのための法改正や、漁業者の休漁時の所得補填などの予算措置も具体化してきそうです。
まとめ
ようやく日本においても持続可能な漁業に取り組む準備が整ったように思えました。しかし、持続可能な漁業を本当に実現するためには、漁師だけの意識改革や取り組みのみでは実現できませんし、学者だけでも、民間企業の活動だけでも足りないと思います。
水産資源は「すべての人ひとりひとりの共有財産」であるとの認識を高める必要があり、やはり消費者の意識レベルを高めることが必要不可欠であると考えます。
牡蠣の会では引き続き「持続可能な漁業」の啓蒙に取り組み、積極的な行動をしていきます。

あずまよしのぶ

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